電話相談道

わたしは現在『電話相談員』として自殺予防、人権問題、メンタルヘルス等に関わる相談を受けている。20年来しんどさを抱える人の言葉と思いをきき受けとめる『相談員』として業務を行っている。その中で専門性をもち『相談をうけること』について感じる事をここに記しておきたく、このぺージを作った。(ここで表記している「相談」は基本的に「電話相談」のことを意味する)

澤井 登志

・電話相談とは

・電話相談の定義

・三通りのきき方

・相談の基本のき

・4つの違いを知る(バウンダリー)

・自己開示

・相談者からの質問


・電話相談とは

 「カウンセリング」と「ケースワーク」と「電話相談」の違い

◯カウンセリングは継続的に時間枠を設け、ある程度回数を重ねカウンセラーとクライエントが共同作業として、クライエントの自己変容を助ける関わりを持つこと。

◯ケースワークは、具体的な解決すべき問題に対して、どのような方法があるのか、情報提供や他機関と連携しながら問題解決に手助けすること。

◯電話相談は、一期一会の関わり。その時のしんどさを受けとめる。具体的に問題解決を望まれるなら場合によっては情報提供や他機関を紹介する必要が生じる。

ただ電話相談はその機関が相談を受ける内容を独自で決めているのでこの限りではない。対応者を専門に置き継続的に話を聞く場合もある。

どの形態の受け方であっても、まずは苦しさ辛さを抱える相談者のしんどさを受けとめ和らげることを目的として、話を聴くことが根底にある。

「相談」は専門性を有することであるから本来ならしかるべき訓練期間を設け、しっかりした研修、実習を受け認められたものが資格を受けるべきであるが、現実は「相談業務」は残念ながらちゃんとした認定制度はない。その機関が独自に認めた者が相談員として相談窓口担当にあたっているにすぎない。これは相談者にとっては危険きわまりない。

例えば、レイプ被害にあった人が苦しさ辛さの軽減を望み相談をしているにもかかわらず相談員から「あなたにもすきがあったのでは」等の言葉を投げかけられ、傷つき『二次被害』にあうこともある。こういうことはあってはならないことである。


・電話相談の定義

特に「電話相談」の定義はない。

相談者には定義がないので、相談員の方がある程度の定義を頭の中に置いておく必要がある。

話しされる内容は今、ここでのこと。

過去や未来の話や自分以外の人の話しをされたなら、

「今、今日困ってられることは何でしょう?」

と相談員が本筋に戻す事。

あちこちに広がる話は、「その中で一番しんどく感じてられることは?」

「ちょっと頑張れば、自分でなんとかできそうなことは?」

等話の焦点を絞ってゆくことが大切。

ただただ、だらだら相談者の話をきき続けることではない。それは知り合いの気の良いおじさん、おばさん。故知の友人関係。それはそれで大切な関係だが、ここでいう「相談」の枠組みではない。

あくまでも「相談」の専門性を持つことが必要。


・三通りのきき方

話のきき方には三通りある。

場面によってきき方が違う。

どれが大切というのではない。

だが特にしんどさを抱えている人には、まず「聴く」ことが必要。

◎聞く(hear)

事柄、事実を聞く(状況、事実確認)

◎訊く(ask)

こちらの知りたいことを訊く、尋ねる 質問すること(情報収集)

◎聴く(listen)

気持ちを聴く(言葉と気持ちや想いを受けとめる)


・基本のき

相談の基本

困りごとに対して、

①どんな思いをしているのか?

②どうなればいいと思うのか?

③そうできるように自分では何ができるのか?

どう思う? どうなればいい? どうできる?

相談員からこうすれば、ああすればを言う前に、相談者ができること、してゆくことを自分で答えを出すこと、考えることが大切。

人から言われることは行動に起こしにくい。自分の言葉でこうすると発したことはやろうという意欲が出る。


・4つの違いを知る(バウンダリー)

四つの違いを知ることが大切

①事実と想像の区別がつくこと

②現在と過去、未来の区別がつくこと

③自分と他人の区別がつくこた

④事柄と気持ちの区別がつくこと


バウンダリー(境界・垣根)

人と自分の境界線

境界線があるということに気づかない人がいる。

それが分からなくて、曖昧なのでしんどくなる。

人の境界内に侵入して関係がわるくなる。

自分の境界内に侵入されていることに気づかず、嫌な思いをする。

境界線は関係する人によって変化する。

自分のその時の状態によってもかわる。

でも基本的なことは知っておくことが大切。

私たちは境界線のことを『垣根』と言っている。その方がわかりやすい。

コンクリートの城壁でなく、生垣。

全く人を拒むのでない。

時と場合によって、風通しが良い状態でいること。


自己開示

自分のことを話すことを自己開示と言う。

自己開示には①行動②事実③価値・考え④気持ち の4つの種類がある。

①昨日久しぶりに家族が揃って夕食を取った

②私には子どもが三人いる

③やはり男は仕事、女は家を守る形が家庭のあるべき姿だと思う

④あなたの話をきいて私も辛くなった

との応答となるが、①②③を相談員から話しをしても辛さや苦しい思いを抱えて相談してこられる人にとっては役につことはない。

④の相談員の気持ちを伝えることは、思いを伝え合う関係を築く役割を果たすことになる。

自己開示をする事で親密性が深まり相手との距離が近付くと思われがちだが、①②③の話をして距離が近付くのは、表面上のことが多く、信頼関係を作ってゆくまでにはならない。

相談員が自分のことをわかってもらおうと自分のことを話すのは自己主張であり、相談関係ではない。そもそも相談員のことをわかってもらう事ではなく、相談者の事をわかろうとする態度が伝わることが信頼関係を作ってゆく。

例えば、相談者が子どもの事での悩みを話すと、相談員も「私にも同じ年頃の子どもがいまして...」と話し出すのは相談関係ではない。必要のない自己提示は相談関係を良くすることや、ましてや問題解決に役立つことはない。

時に相談者から、あなたはお子さんがいますか?などの質問を投げかけられることがあるが、いるかいないかの返事をすることが必要ではない。(#相談者から質問された時の項に掲載)


相談者から質問されたら

質問されたらそれに答えるのが人の習性である。

しかし、相談関係の中で、相談者からの質問に対して、そのまま答えることが必要であるかどうかの判断を瞬時に考えなくてはいけない。

まずは質問されたことに「何か気になられますか?」と問うこと。

相談者の中には特にその答えを訊きたくて質問したのでなく、間を埋めたい、興味がある、話すことがなくなったような時に質問されることがある。

それに対しては答える必要はない。気持ちを受け止めること、応えることが大切。

子どものことで相談されている人が相談員に「お子さんはありますか?」と問われることがよくある。あるいは夫婦問題で悩む人が「結婚されてますか?」と訊かれる。それに対して「何か気になられますか?」と言う、質問の意図を訊くことの方が大切だから。

子どもが居ても居なくても、結婚していてもしてなくても「しっかりお話を伺わせていただきます」と応えることが必要なのだ。何故なら同じ立場でない人は自分の気持ちはわからないのでないかと思ってる人もいるから。